関西から出発し、九州の熊本・大分あたりをマイカーで徘徊。車だと荷物満載で行けるのがグー!!
YH(ユースホステル)などに泊まり、基本は毎食自炊ってのがポイント。毎日ご飯を炊いて魚を焼いて人参をゆでる。
そして歩いてしか行けない秘湯?の温泉にも2人でLet,Go!
毎日、緑あふれる山々と野性味たっぷりの動物たちとの出会いが盛りだくさん。
親子で感動!感激の毎日!!
【 大まかな行程 】
神戸→フェリーで大分港着→別府→阿蘇→九重→大分→フェリーで神戸帰着
【 日々の行き先 】
6月2日 自宅から車で神戸港へ。フェリーで大分港に向け、いざ出発
6月3日 午前7時大分港到着 大雨なので、温泉に入り宿でお昼寝。雨がやんだら鉄輪温泉で別府地獄めぐりと、砂湯に入ってお砂遊び
別府ゲストハウス泊
6月4日 Rが鼻水たれ男に。しかも夜中に咳込んで何度も起きる。朝一番に小児科受診。別府で連泊し、体調を整えることに予定変更。 別府ゲストハウス連泊
6月5日 Rの咳や鼻水をしっかり薬で押さえつけ?次なる目的地、阿蘇へと向かう。仙水渓に立ち寄り、阿蘇のあふれる緑に感動!放牧の牛とたわむれる
早めのチェックインでのんびり
南阿蘇市高森町の村田屋ユースホステル泊
6月6日 阿蘇ミルク牧場は動物天国。放し飼いのヤギやブタたちにビックリ、遊びまくりで帰れなーい
ユースホステル連泊
6月7日 阿蘇パノラマラインをドライブ。 見渡す限り緑、緑、緑。阿蘇は緑の王国だーーーしかも周りには牛、牛、牛!人間よりも牛のほうが多い???
中岳火口を見た後は、竹原牧場で赤うしをたらふく食らう。今日の昼飯、肉のみ。R、100グラム!!モォォォ〜
あそくじゅうユースホステル泊
6月8日 昼前より大雨の予報に、早朝オーナー案内の猟師山に登る。朝寝し、のんびり買い出し(買い出しに片道小一時間!)、帰りに黒川温泉でひとっ風呂!
あそくじゅうユースホステル連泊
6月9日 九重夢大吊橋と、牧場に行く予定が・・・。やまなみハイウェイを走ると九重山がピンク色。こりゃ行くっきゃない!で、急遽コース変更。引き返し、ミヤマキリシマに染まる九重山に登る。やったーーーーっ
あそくじゅうユースホステル連泊
6月10日 午後から降水確率100パーセントでも、行きたい気持ちが止まらないこの旅のハイライト、歩いてしか行けない山の中の温泉『法華院温泉』。 Rを背負って、片道1時間半のはずが・・・道に迷い、2時間半。なんでやーーーっ温泉に入って個室でのんびり、雨音もまたよろし。
法華院温泉泊
6月11日 同じく降水確率100パーセント、いや200パーセントかな 昨日からバケツを引っくり返したような大雨。R、頑張ってよー。腹をくくり、いざ出発!しようとしたその時、まさにサプライズ!!!「15分ほど待ちませんか?」「車で送りましょう」声の主は法華院温泉の社長。涙・涙・涙・・・。神に見えたのは言うまでもない。林道を車で送ってもらい、大分に移動。大分センチュリーホテル泊
6月12日 大型水族館 うみたまご にて、思いっきり遊んでクッタクタ。R、張り切りすぎて魚のタッチプールに頭から飛び込む。ドッボーンッ・・・そんなやつ、おらんやろ〜
18時55分のフェリーで大分港を出発
6月13日 朝7時15分 神戸港に無事到着、自宅へ
【 旅日記 】
旅が始まると、今その時に全力投球。
でも、出発するまではドキドキ・ワクワク、心の中だけの冒険は自由自在。誰も知らない想像の世界は留まることを知らない。
もちろん実際には、私の旅なんて単なる親子旅行にすぎないのはよく分かっている。
でも『何でもないことを何でもあるようにするのは、自分』。。。。やもんねっ。
1歳3か月になった息子の『R』。ひょこひょこ歩き始めて動くことが楽しくて仕方がない。
そのRと、車に乗って母と子の2人旅にお出かけ。
会う人ごとに「一番大変な時期やねぇ」と言われた。
一番大変かどうかは別として、大変な時期なのは間違いない、と思う。とにかくどこでも登る、落ちる、引っくり返る。
触る、舐める、かじる。
そしてまだまだお約束のできないお年頃。
「ちょっと待ってよ」が通じない。トイレにまでハイハイでついてくる。(トイレの段差が歩いて越えられないので)。便器を触り、トイレットペーパーを引っ張り出し、「アカン、アカン」というと、「ニターーーッ」。
分かっとるんかい!
え?鍵閉めろって!?ごもっとも。。。
そんなこんなで、はたから見るとかなり大変な親子だったと思う。
けれど、「大変やねぇ」と言っていた人たちが、別れ際には応援してくれる。
「いい親子に会えたよ」「ありがとう」と言ってくださる。
きっと、私たちが本気で旅をしている、そして今を楽しんでいるってのが伝わったんじゃないかと、私は勝手に理解している。
そんな母と息子のはちゃめちゃ九州親子旅、はじまりはじまり〜。
6月2日(月)
「19時50分のフェリーに乗るんですけどっ!今○○ってとこの前ですっ!」叫び声に近い。
相手はフェリー乗り場のお姉さん。声の主はもちろん私。バックミュージックは、Rの泣き叫ぶ声。
かなり早めに家を出たというのに、神戸ポートアイランドのフェリー乗り場手前の数キロで、なんと高速道路が通行止め。
2時間近く渋滞に巻きこまれた揚句、極めつけにポートアイランド内で迷子。
出港までの時間がキリキリと迫る。
車中でRは退屈の限界を超えているけれど、ゴメン、今はそれどころじゃない。このフェリーにはどうしても乗らないと・・・!
冷汗をかきながら、なんとかフェリーターミナルに入れた時には、ファァァ〜、フニャフニャフニャ〜、力が抜けた。
はぁぁ〜、間に合った〜、セーフ・・・。ヤバイヤバイ、出航30分前だわ。
でも、これで楽勝やー!と、遊んでいると館内放送が流れる。
「ピンポンパンポーン お車のお呼び出しをします・・・」
えーーーーっ、私の車やん!
雨の中、Rを抱え慌てて外に飛び出すと、広い駐車場に私の愛車がポツン・・・。待ってくれ〜、乗ります、乗ります!!
ドタバタしながらも大分行きのフェリーに乗り込み部屋に入ると荷物なんて、ポーイッ!放り投げて、ヤッターッ。バンザーイッ。
一人用の決して広くはない個室だけど、心は広々〜、開放感でいーっぱい。ワーイ、出発だーい。
Rが私の靴をかじっていても「よかよかー」
家から作ってきたお弁当、おにぎりが落っこちても「よかよかー」「食っとけ、食っとけ」
おかげでRの得意技は拾い食い。食べさせようとしても食べないのに、落ちているものは食べている。
こんな姿、父ちゃんが見たらビックリするよ・・・
ひとしきり遊んで満足したRがネンネすると、ますます小躍りしたくなるような開放感。
うずうずして眠る気にならない。
あ〜、旅立ちだ〜っ
6月3日(火)
始まりはいつも雨なんだよな〜。
朝7時半に大分港に着いたというのに、9時にはすっかり別府の人。早速、地元民に交じり市営温泉に入ってゆっくりくつろぐ。
そして、ゆったり朝寝と決め込む。雨には雨の人生なのだー。
別府はすごい。
何がすごいって、温泉がすごい。
すごいすごいと何回でも言えるくらいすごい。まさに温泉天国。
いたるところに温泉、しかも市営温泉は何と100円!!100円やで、100円。
缶ジュースよりも安いなんて考えられる!?
雨なので朝から早々と宿にチェックインし、歩いて数分でやってきた不老泉という市営温泉。
「鉄輪温泉まで行くといい温泉があるよ」って言われたけど、私はこの100円温泉がめちゃくちゃ気に入った。シャワーも石鹸もない。湯も激アツでアチチと湯だっている。けど、ここはまるで近所のバアチャンたちの憩いの場。ま、ジイチャンがいたら問題だけどさ。
とにかく、いつもと違うのは多分私たちがいることくらいで、ほのぼの感たっぷり。場所だって、市民センターみたいなとこに普通にある。生活のにおいがするってのが何ともいい味、私はこういう場所が大好きなのさ。
バアチャンたちに、かわいがってもらいながら、Rも少しづつ「なんだか不思議なところに来たようだ」と気付いてきたみたい。
きっと何回か寝て起きたら、家のことなんて忘れるだろう。
ちょうどお昼寝から起きたころ、雨も上がりうわさの鉄輪温泉へと車で繰り出す。
ちょいと地獄めぐりでお散歩だい。でもここ、以前よりも少しさびれたような。お店も閉まっている所が多いし。平日の観光地ってこんなものなんかなぁ。それとも次々新しいレジャースポットができているからなんだろうか。私たちにはちょうどゆっくりしていていいんだけれど。
おやつはもちろん、温泉卵と温泉名物ふかし芋。その辺に座り込んでムシャムシャ、硫黄のにおいがたまんなーい。
子連れには山地獄がGOOD。象に餌やりなんて初体験!ビスケットを持っていると長―い鼻で取りにきて、パクリ。うわぉぉぉー。象の鼻、触っちまった〜。
私の方がキャーキャー大はしゃぎ。Rは象よりもそんな私のほうが気になるみたい。
お散歩の後は、もちろん温泉。
九州に来たからにゃぁ砂湯でしょ、砂湯。ここ、ひょうたん温泉の砂湯、実はセルフ。
というのは、砂かけの人はいなくて自分で掘って自分でかぶせる。だからこそ、ここに来たのさー。
ウフフ、なぜかって?
Rにとって砂湯は、砂場そのものなのだー。
スコップもあるし、ワーイ、母ちゃんとお砂遊びだーい。
6月4日(水)
やばいなー・・・
これは普通ではない。
ゴホゴホッと咳込み、夜中に何度か自分の咳で目覚めている。食べ物も咳込んで飛ばしてしまう。
熱を測ると37度5分。今から上がるなー。昨日から鼻水もたれているし。
アカン・・・これではお互い楽しめそうにない。
よし、決めた。医者に行こう、医者へ。
そうと決まれば即行動、朝起きてすぐに最寄りの小児科へと車を走らせる。
その前に、今晩の宿泊手続きをして昨日と同じ部屋をキープ。これで明日までの居場所はOK、チェックアウトがなくて昼間もずっとゆっくりできる。これが連泊の最大の魅力だ。今日向かう予定だった高千穂は、またの楽しみにしよう。後で、宿のキャンセルをしとかなくっちゃ。
さすが、別府の駅前。車で走るとすぐに小児科があるのはありがたい。
旅はまだ始まったばかりだし少し大げさ目にドクターにすがって、残り11日分の薬を処方してもらった上、吸入もしてもらう。
「きゅうしゅうできゅうにゅう」。なんだか早口言葉みたい・・・いやいや、それどころじゃないって!
話はもとい。小児科で強めの薬(要はステロイド)が処方されているけれど、どうしよう・・・。今までそんな薬飲んだことないよ。国内でこんな調子なんだから、子どもが海外で病気になったらどうするんだろー。とにかく食い下がって説明をしてもらって(日本語でよかった)、一応は納得。抵抗はあるものの、エイヤッの気持ちでステロイドを飲ませてみることに。
Rが楽しくなけりゃ、母ちゃんも楽しくないよ。元気になれよ、R・・・。
その後はほぼ一日中ゆったりと部屋の中で過ごし、お昼寝中のRの横で私もゴロンと転がって「15少年漂流記」を読んでいた。
「子どもの頃読んだ本で心に残っている本は?」と尋ねられたら、間違いなくこの本と「ロビンソンクルーソー」。
大人になってから、大人版(というか、子どものころ読んでいたのが子ども版なんだろうけど)を読んだのは初めてだったけど、懐かしかったり、いくらか思い違いをしていたことに気付いたりする。
ロビンソンクルーソーの大人版も読んでみたいもんだ。
そんなこんなで、私もいっぱい新深呼吸してかなりの余裕ができた。昨日は残りの日を数えるくらい弱気になりそうだった私。
でも、しっかり思い出した。2人で楽しむために旅をしてるってことを。
おかげで体が旅モードに馴染んだわ。Rの目線で見るもの一つ一つに感動しながら、時を過ごそう。
夕方、ベビーカーでまたまた市営温泉へと向かう。このゲストハウスにはシャワーしかないので、風呂好きの私は何としても温泉に入りたい。
今宵は「竹瓦温泉」。
もちろん100円。
持ち物は、風呂セットとステロイド薬。
そう、温泉前にクイッと一杯。うぃ〜っ、母ちゃんこの薬、いけるぜーっ。ってか。
昔は風邪ひいたら風呂に入ったらあかんって言われてたような。でも・・・別府にいるんやもん、どんなことがあっても温泉には入らねば!ってどんな理由やねん。
薬と鼻拭きガーゼを前にして今から温泉。R、あんたは強くなるよ。
別府の温泉は、観光客にあたたかい・・・
何てったって、人があたたかい・・・
温泉街にあるこの温泉、そんなことは気にせず女・子どもも行ってみるべし!
周りの人たちは、子連れの私の洗面器を片づけてくれたり、うめた湯を汲んでくれたり。
張り紙にも、「地元の人は温泉の湯で髪の毛を洗っています。うんぬんかんぬん」「地元の人もお湯が熱ければ、水を足してあげましょう」
別府は、観光客が観光客じゃなくなる街なんだな。
6月5日(木)
熊本県ってどこやったっけ?
なーんか印象の薄い熊本県。そんなことない?
でも、これで2度と忘れない、ここは緑の王国。
別府から阿蘇山の東を抜けて、南阿蘇へと車を走らせていると、見渡す限りの緑・緑・緑!!こんもり、まぁるい緑の丘が次々と現れる。
「日本昔話にでてくるような山や」友人が九州の山を例えて言った言葉を実感。ホンマ、日本昔話の世界や〜。
今日の私はというと、ナビと大格闘。
このナビ、廃車になる車から私の愛車に嫁いできた。そして、出発前夜にセット完了。今初めて始動というわけ。
大分市をうまく抜け、いい気分になってもちろん窓は全開。道行くチャリダーに親指を立てて合図を送る。気分はすっかり旅人。ナビとも仲良くやっていけそうだと思っていたのに・・・。
案内ルートはどんどん山奥へと進み、そこはすれ違いのできない山の中の1車線。ナビよ、こんな山奥へ私を連れて行って何をするおつもりなの?
これでも国道か!?おそるべし、山国九州。
やっと中央線が出てきたときには、愛しや、2車線!の気分。勘弁してよ、もう!!
でも、またすぐにショートカットルートに連れ込もうとするナビ。ここは林道やんか!
自分を信じようと思いながらも、ショートカットルートに心が動き・・・何度引き返したことか。
ナビよ、そろそろよいではないか。仲良くしよう。。。
阿蘇の外輪で、散歩がてらに立ち寄った仙水峡。
車が標高を上げていくと、「わぁぁぁ〜、すっごーいっ、すっごーいっ!。」
口から溢れ出る言葉が止まらない。駐車場に着くまで「すごいでー」「すごいでー」の連呼。
こんなにもたくさんの緑を見たことがない。まるで、地上にあるもの全部に緑の布をかぶせたみたい。
なんちゅうとこや、ここは!360度どこを向いて写真を撮っても、緑と空の青。
車中で退屈していたRもキョトンと外を見ている。というよりも、私の反応に驚いてぐずることも忘れているみたい。
丘の上はさぞかしすごかろうと、さっそうと車から降りたとたん・・・
こりゃあかん!遊歩道はドドーンッと山の上に向かっていてそびえたっている。ありゃー、散歩は無理だー。
おまけに極寒。長袖のヤッケを着てても震えるくらい。病み上がりのRにはキツイ。
おかしい?。九州は太陽ギラギラ、南国なんじゃないのー?家では半そでやったのにぃ〜。
お弁当タイムもそこそこに、そそくさと退散。
すると、周りには当たり前のように(当たり前なんだけど)、すんごい食欲で牛たちが草を食んでいる。
初めビビっていたRも、大喜びで牛の横を歩き回り、自分も草をあげようとつかんでいる。私はそれを見ながら、子どもの成長を感じて一人でジーン。。。
こんな私たちの旅は超スローペースで進む。牛を追いかけてどんどんと移動していたから気がつくと私達の車ははるか彼方になってしまった。
でも、これでいいのだ。これが、いいのだ。
6月6日(金)
ここは野生の王国か!?南阿蘇の阿蘇ミルク牧場。
園内は黒豚が歩き、子ヤギがじゃれ合い、あらゆる動物が放し飼いで走りまわっている。
で、ここの動物は何がすごいって、ヤギがお手をする。これ、ホント。おかわりもする。ホントにホント。
ものすごくしつけが行きわたっていて、犬たちもカメラを構えるとちゃんとお座りしてハイ、ポーズ。
2人で大興奮!牛の乳しぼりをしたり、生後4日の子ヤギを抱っこしたり、1年分のイベントをこなしたんじゃない?
パワー全開、これでもかというくらい次々目新しい事ばかりに、じっとなんてしてらんない。めちゃ歩いた〜、喉も乾いた〜。
で、ランチはリッチにバイキング。
子連れ人はここは絶対行くべし。しかも、入場料300円。そんなんでいいのー?
動物たちも「飼われている」感じが全然ない。みんなここで「生活している」。
こういう牧場が九州にはいくつもあるらしい。九州は野生の王国だったんだーっ。
Rがいなかったら、もしここに来てもこんなに楽しくなかっただろうなぁ。Rに感謝、だわ。
目一杯遊んでクタクタ、晩御飯どうしようかなぁ・・・。
今回泊まる中で、唯一ここのYHだけは自炊ができない。今から食べに出るのも億劫だけど、昨日の夕飯はニンニクやトウガラシがいっぱいでRは食べれなかったし・・・。私はおいしかったんだけどさ。
あ〜、どうしようかなぁー・・・でも、食べに出るしかないよなぁと思っていると、「今日の晩御飯どうする?」と、おかみさん。
近くで焼き魚かうどんを食べれる場所を尋ねると、「うどんくらい作ったげるよー」「他にRちゃんの好きなモノ、何?」
えええええーーーーっ、夕飯リクエストしてもいいのぉ?
他にも、「子ども用に茶碗蒸しとなんきんはどう?」。
あるものやったら何でも作ったげるよぉ!うちの孫も食べさせるの苦労してるわーと、あっさり。
ジーン・・・。
いつかRが大きくなったらここに来ることもあるだろう、そう実感した。
押しつけがましくもなくごく普通に、当たり前のような心遣いに、「うれしいです〜」となりふり構わず心の奥から言葉が沁み出る。
実はR、環境が変わったからか食べる量が激減し、数口も食べない時もあった。それが一番の気がかりだった私。
そして、テーブルに並んだRの大好物の品々。
Rにも伝わったんやろうなぁ。まだ食うか!っちゅーくらいの勢いで食う、食う、食う。
私にと出してくれた鳥フライまでバクバク、完食。
R、あんたは人の心が分かるんか、母ちゃんはうれしいよ
6月7日(土)
やまなみハイウェイを通り、中岳の火口をのぞいたり草原を眺めたりしながら、久住へと向かう。
何もないようで見どころも多い。けれど私たちが車を止めるのは、観光マップに載っているような場所とは違い、道路脇でまったりしている牛の側。
牛は背番号(ホントに背中に番号が書いてある)があるから飼育されていると分かるけれど、これがないと野生なんだか何なんだか分からないくらい、草原ははてしなく広い。牛がいくら食欲旺盛でも食べつくすことは不可能なんじゃないか。とはいっても、これはきちんと管理されてるからこそなんだろう。
私たち旅行者がパッっとやってきては分からない程の苦労があるのだと思う。
この自然味あふれた風景が、いい形でこの先も残っていくといいなぁ。
道路脇に牧場があるとついつい足が向いてしまうのが子連れならでは。
この竹原牧場でちょうどお昼時になり・・・
牧場内での野外BBQサイトがふと目に留まる。おぉっ、楽しそーう。きっとRも大喜びだわ。
そして、この旅最初で最後の大奮発、『あか牛BBQ』!!えーいっ、どうだっ!
1人前200グラムの肉の塊を丸焼きスタイル。肉の塊を串にさし、炭火でジューッ。焼けたところからナイフでそぎ切りながら食べるってわけ。
「一人が押さえて、一人が切ってください」って、そりゃないぜ、牧場のお姉さん。確かに、私たちは2人連れ。だけど・・・。
一切れずつ切っては肉を回し、なかなか手間な作業ではあるけれど、時間に制約のない私たちはお構いなし。ここは牧場の一角、もちろん周りには動物たちがいっぱい。
おこぼれをもらいに来る犬やヤギと一緒にRも私の周りを歩き回りながら、口も休みなしで忙しい。
2人とも今日の昼飯、肉のみ。1人前200グラムの肉を半分こでペロリ。自然の中で食べるとおいしいねー。
私はちゃっかり、食べきれなかったご飯をタッパーに詰めてお持ち帰り。コレ、旅人の鉄則ね!(注:いつもはしません・・・)
雨が降り出した頃、あそくじゅうYHに到着し、お昼寝タイム。チェックインはまだまだだけど、シーツだけ持って勝手に入ってねーって。
おっ、なかなか居心地がいいかも。フフフ。
この管理人のY子さん、今晩は台所を使わないでくれたら有難いという。明日からはいつでも一緒に使ってもらっていいからって。
なぜって、今日は年に数回のYH大繁盛の日らしく、オーナーもお手伝いさんも駆けつけている。この数日がミヤマキリシマの見頃らしい。
おっ、ラッキー、偶然やけどバッチリやん、ミヤマキリシマ!
今宵は大賑わいのサタデーナイト、今からYHの庭でBBQ宴会って。ワォ!
こんな時くらい、子連れだから時間を合わせるのが大変なんて言ってらんない。ハーイッ、BBQもちろん私たちも喜んで参加しまーすっ。
自己紹介なんて、気恥ずかしかたっけれど、こんな機会でもないと他の人たちとも話さなかったかな。
お昼に食べすぎたせいで、さすがにBBQの網には近づけなかったけど、だご汁には感激。
だご汁というのは、まぁ言えば団子汁。「だんご」→「だご」と、だんだん変化したものなんだって。要は、小麦粉を水で練った団子が汁の中に入っている。ぜんざいにも入っていたのは驚き。「あれ?入れないの?」って言われたけど、「だご」自体初めてやもん。
Rは、いっちょ前にBBQの仲間に入れてもらい、その後の夜の温泉ツアーにもマイクロバスに乗せてもらって参加し、電池が切れたみたいにコテンッと寝てしまった。
6月8日(日)
朝会って、「やっぱりそうやっ」と驚き。
まさかこんなところで知り合いに会うなんて。
昨夜、黒川温泉へのマイクロバスで一緒だったが、真っ暗なので分からなかった。布団に入ってから、あれ?もしかして?と、気づく。
よくクライミングジムや、クライミングの大会会場でお会いし、密かに尊敬していた。みんなには「せんせい」と呼ばれている方。
お声をかけると、今回も学生たちを連れて熊本国体のための遠征という。
「おかげで若い人が育ってくれて」。強靭な魂と肉体を持つ、小さな体が笑った。焼けた肌に、白髪と白い歯がまぶしい。
私も生涯現役で好きなことに関わっていたい、溢れるパワーを受けてそう感じた。今日もきっと、中学生や高校生を連れて登りに行くのだろう。
「頑張ってください」心からそう伝え、玄関まで見送った。
そして自分自身に言う。「私もがんばります」。
早起きのRと朝ごはんをしていると、オーナーと出くわす。他のお客さんを山へガイドするのに、今から出発するんだって。
このYHから最も近くでいい山、「漁師山」だとか。ならば、ハーイ「行きます、行きます!」飛び入り参加。
数分後の7時過ぎには準備OK、車に乗り込んだ。登山口までだけ一緒させてもらおっと。
昨夜からRをかわいがってくれたオバサンが、おむつや着替えをかき分けて私の車の荷台に乗り込んできた。「どこでもいいから乗せてね」。
「どーぞ、どーぞ」見知らぬ人と旅の話に花が咲く。
今日は日曜日、久住山の登山口は駐車場に入りきらない車であふれかえっているという。
こちらはのんびり里山ハイキングでいい気分。うわさのミヤマキリシマとも記念撮影、ハイパチリ。
往復2時間ほどの早朝散歩の後YHに帰ると、「コーヒー入れたよ、お茶にしよう。」って管理人のY子さん。
はいよ、待ってましたー。まるで私たちもここの住人。
ここに3連泊だもんなぁ。しかも、私たち以外のお客さんは数組。必然的に仲良くなるか。いや、それだけでもなかったような。ククク。
あるご飯時、「お願いがあるんだけどっ」ってY子さん。血相を変えて私を探していた模様。
「お願い、ご飯ちょうだい!」「私のパンあげるからっ」・・・
あははは〜、もうお腹を抱えて大笑い。お客さん用に炊いたご飯が足りなかったらしい。
どーぞ、どーぞ、何ぼでも。
お客さん用炊飯器の横で私たちの炊飯器もいつもクツクツ。
その代わりと言っては何だけど、私も「みそ汁残ったらもらえる?」とか、「だご汁の余りちょうだい」と物物交換が成立。
足りなかった人参を寄付して、その人参入りのだご汁を私たちも食べていたりと、気分はまるで期間限定の家族。
今日は買い出し日和だわ。だってお昼から大雨。
そう、何で買い出しが一大イベントになるかというと、四方どちらへ行っても車で30分は走らないとスーパーがない。近くのコンビニは夕方5時半で閉まるというし。
往復1時間以上かけて大型スーパーからの帰り道、せっかくなので今話題の黒川温泉へといざなう。もちろん、黒川温泉でひとっ風呂。
ふぅぅぅ〜、極楽、極楽じゃ〜
そして、買い出しの日は特別豪華メニューだい。今夜は、アジの塩焼きに野菜炒め、なんきんの蒸し焼きにトマトもあるぞぉ。全部Rの好物ばかりなんだよね。
たーんと食えよー。
6月9日(月)
今日は梅雨の晴れ間の大快晴!
さすがに梅雨やから雨も降るけど、そんな時はほとんどがお昼寝中。というか、「雨が降ったら、お昼寝」のパターンなんだよね。
今日は雨の心配なし!思いっきり遊ぶぞぉー。お弁当もできたし、しゅっぱーつ。
まずは世界一という「夢の大吊橋」に寄ってから牧場に行こう。と、やまなみハイウェイをさわやかにドライブしていると・・・。
目の前に色鮮やかなピンクの山がババーンッと飛び込んできた!なにーっ、山がピンク色ーーーっ!!
こ、これがミヤマキリシマに染まる山なのかーーー
余りにも意外な新事実の登場に、心臓がバクバク。頭の中はピンクの山でいっぱいに・・・。
どうやったら行けるか?何時登山口なら?山のことしか考えられない。どうしよう、どうしようと思いながらも車は進んでいく。
離れるにつれて、強くなる山への思い・・・。夢の大吊橋の駐車場に着き、橋を見たとたん心は決まった。「ピンクの山へ行こう」。
今の私にとっては山の魅力にかなうものはない。吊橋にはとても申し訳ないが。
車を降りたとたんすぐ車に乗り込む私たちに、駐車場のおじさんは「もう帰るの?」とビックリ顔。当り前か。
でも、そろそろドライブに退屈してきたR。遊んでくれ〜とむずがりはじめた。エイッ、こんな時こそお菓子が活躍。これでどうだ、子ども用ビスケット!
今までほとんどお菓子を見たことがないR、舐めまわして不思議そう。
おとなしくなってるそのすきに、誰もいない(と思う)YHの廊下を着替えながら走る。しょいこを積み込み、行くでぇぇぇ〜っ。
「九重山にいってきまーす。途中まででもっ」と叫ぶと、洗濯物を干していたY子さんから「山頂ねらえるよー」っとの返事。いかにも山女らしい。
ハハハッ、でもお調子者の私、すぐにその気になるんだよなぁ。よぉし、山頂まで行くぞーい!
車は順調に走り出したけど、Rはとろけきったビスケットでグチャグチャ。頭も顔も手も服も!未だ原形をとどめないビスケットと格闘中・・・。私はもう見て見ないふり、しかない。
午前11時、久住山の牧ノ戸登山口に立つ親子連れ。もちろん私たち。よっしゃー、行くで行くで行くでーーっ。
おや?足が宙に浮いているのでは?そう、浮足立ってるのよ、私。山にいることがうれしくてうれしくって、体まで弾んでしまうくらいなのよ〜。タラッタラッタラーン
同じくしょいこでRがキャーキャー大はしゃぎ。私の背中で、手足をバタバタバタッ。
おいおい、もう少しおとなしくしてくれよ〜、落っこちるよ〜。親子って、やっぱり似てくるのかなぁ。
行き交う人に「誰としゃべってるんかと思った」と不思議がられるくらいのはしゃぎっぷりで、2人の世界を満喫する私たち。周りには「〜バイ」とかの言葉が飛び交っていて、私たちこそ周囲の会話をほとんど聞き取れない。ありゃま、思えば遠くの山にきたもんだ。
この気持ちよさがRにも分かるんだろう。張り切って色んな事を指差して教えてくれる。
「アーアー」「うん、お花きれいねぇ」
「アーアー」「うん、お花いっぱいやねぇ」
ミヤマキリシマに染まる久住山、絵にかいたようなこんもりしたお山に包まれている私たち。こんなにも穏やかな山行きを何ではじめから思いつかなかったんだろう。私っておバカさんねぇ。
あ〜、すがすがしい〜。あ〜、私ってホント幸せモノ〜。 午後3時、ゆっくりお弁当も食べて無事下山。
牧ノ戸登山口に戻ったRは、しょいこから解放されてまたまたパワー全開。途中で会ったオジサンからお菓子をもらったり「えらいねぇ」と声をかけてもらったり。
でも、本人はそんなの知らんぷり。自動販売機からジュースやお茶が出てくるのが不思議でたまんない。自分も石ころを入れてみたり、頭を突っ込もうとしてみたり。コリャコリャ。
さぁさ、そろそろ温泉入って、お昼寝タイムにしよう。
6月10日(火)
本日の天気予報、午後から雨マーク。ただの雨マークではない。降水確率100パーセント。
梅雨真っ盛り、こんな日もあるさ。
法華院温泉・・・初めから雨なら中止、と決めていた。
雨の中、Rを背負って歩くわけにはいかない(法華院温泉へは一般車両通行禁止のため山道を最低でも1時間以上歩かなければならない)
だからこの旅で用意した雨具は、私の上着だけ。Rのはヤッケのみ。
だけど、何度も心が揺れ動いている。そしてとうとう、久住で過ごした数日で気持ちが固まってしまった。
「法華院温泉へ行こう!」と。
そう、この旅のメインディッシュ、歩いてしか行けない山の中の温泉、法華院温泉への1泊旅行。私たちにとっては、プチ冒険旅と言ってもいいかな。
背中には、Rと泊まりの荷物、そして愛用のバーナーやコッヘルたち。合わせると私の体重の半分くらいにはなってるんじゃなかろうか。お、重いぃっ。だって、Rの物ならついつい入れてしまう、いたいけな母。
雨で濡れたら着替えもいるな、じゃぁ長靴も、あれもこれもと雪だるま式に荷物が増え・・・。最後はエーイッ、何でもこーいっ!。1グラムでも減らすのが鉄則なのにぃぃー。
でも、当初の予定からすると歩く時間は何分の一かだ。だって雨でも行くためにゃぁ、ばっさりルート変更。
牧ノ戸登山口から久住山を経て山荘到着、翌日は長者原に下山予定だったのを、最短コースで法華院温泉へ直行することに。この最短の登山道を使えば、1時間半で到着するという。
「1時間半」と聞いて、私の眼はキラキラ。いや、ギラギラ。こうなりゃ何が何でも行くのだー。法華院温泉は私たちを待っているのだぁ!
大船林道の入り口にある水口登山口に着いたのが8時前。幸いなことにまだ雨は降り出してはいない。
さぁ、雨より前に出発だーい。おっ、ホラ貝がなっている。わけないか。
5人組の先行パーティにくっついて、歩き始める。が、「こりゃないやろーっ」って何回言うたか!とにかく道が悪すぎる。引き返そうと思いながらも、「もったいない」のと、「引き返す方がヤバイ」くらいの道だったのだ。いつの間にか先行パーティの踏み跡も乱れ始め、完全に道なき道に突入。
アカン、子どもを背負ってこんなことになるとは!何をしとるんだ、私はっ!!
引き返していると、先ほどの5人組み・・・。「道ありますかー?」との叫び声。またやってしまった。。。
「すみません」と謝られたけれど、悪いのは私じゃー。ええかげんにせーいっ。みんなで登山口まで戻ると、登山口を入ってすぐにれっきとした登山道!
ふぅっ、ま、おやつでも食べるとするか。
出発から1時間後の9時、よし!今度こそ気持ちを入れ替えて再出発だい。
昨日の久住山への道とはうってかわって、静かな木立ちの間を進む。誰一人として行き交う人がないのが少し心細い。
テープはあるけれど、看板の一枚もなく、このままどこか知らないところに行ってしまうのでは?と、そんな気持ちがフッとよぎる。絶対大丈夫、そう分かっていても初めての場所は何だか不安になるものだ。
私の体は法華院温泉までの「1時間半」にタイマーをセットしてある。出発前に迷って30分も使ってしまったから、そろそろ電池が切れそうだわ・・・。
林道と合流するところで、平治岳から下山してきた人と出会う。聞くと、坊がつるはもう15分ほどだとか。ここまで来ればもうゆっくり歩いても大丈夫、少し心が緩む。
そう、こうして楽しみの中にもずっと緊張感があるのは否めない。でも、だからこそ満たされるも大きいのも間違いない。
そしてその緊張がすっとほぐれた時、今ここにいる自分を感じることができる。その瞬間、自分はとてつもなく幸せだと知る。
わぁぁぁ〜、着いた、着いた、来れたよ〜、法華院温泉。やったーっ。
何日もここに来ることばかりを考えていたと言ってもいい。
Rは背負い子の間で、つぶれた饅頭のようにぺちゃんこになりながらも眠っている。その重みに、今は頬ずりしたい気分だ。
バンザイと叫ぶよりも、ジワリと湧いてくる実感が心地よい。
再出発からちょうど1時間半の10時半過ぎ、私たちは法華院温泉の門をたたいた。現実には、入り口で「こんにちは」と声を上げたのだが。
チェックインは2時からとのことだが、背中で寝ぼけている子どもを見て
「お部屋の方がいいね、どうぞ」。
そのやさしい笑顔に何度救われたことか!なにかあれば規則、規則で縛られるし、あちこちに「○×禁止」の看板はあるし、どんどん住みにくくなるけれど、人はあたたかい。旅をする都度、身にしみる。
6月11日 (水)
法華院温泉の1室で雨にぬれる緑を見ていた。穏やかに時が流れ、そしてこの旅日記を書いている。
私の横でRがよく眠っている。
ここ法華院温泉の本棚には本がぎっしり。Rの好きな絵本もたくさんあって大喜び、昨夜もRを膝に乗せて何冊も一緒に読んだ。次はコレ、次はコレとせがむRに、穏やかな顔で応える私がいる。
いいなぁ、特別なことがあるわけじゃないのに、この満たされた時間。
けれど、一方で穏やかではない私がいる。
なぜって 外は大雨! そしてこれからこの雨の中をRを背負って帰らなければならないのだ
昨日から降り続いている雨が、神頼みではどうしようもないくらい降り続いている。さすが降水確率100パーセント。と、感心している場合ではないけれど。
とにかく、食べれる物は全部お腹に詰め込もう。着れる服も全部着よう。
そして、法華院温泉での宿泊するための荷物、どうやってここまで担いできたかというと・・・。
背中にはもちろんしょいこのR、そして腰にはウエストバック、というのはいつものいでたち。これにサブザックが一つ追加になっている。このサブザック、しょいこの背中側にシュリンゲやカラビナで結わえつけて固定した。しょいこのポケットに重いものを入れて、サブザックはオムツや着替えなんかの軽いもので重心を取っている。後ろから見ると、しょいこがサブザックを背負っている形というわけ。
Rはニョキッと出ている足で存在をアピールしているだけで、姿は荷物にうずもれて見えない。
これくらいが私の背負える限界だわ、2人でテント泊は無理だなぁと思ったり。いや、小屋があれば何とか可能か???
なーんてね。
とにかく、身につけれる物を全てつけると、サブザックの荷物はなくなった。Rにしょいこごと、私のカッパを着せて降りるしかない。実はまだコホコホと咳をし、旅の初めに小児科でもらった風邪薬を飲んでいる、R。
大丈夫やからな、頑張ってな、頬を両手で包んで目を見るが、実はこの言葉は自分に言い聞かせている。スルリと私の手を抜けて、無邪気に笑っている小さな姿を見るとチクリ、胸が痛む。後から聞いた話だが、九州で土砂崩れがあったというくらいすごい雨の日だった。
靴をはき、心を決めて法華院温泉を出ようとしたその時、神の声が聞こえる。
「15分ほど待ちませんか?」
「・・・?」の私。
「車で送りましょう」「子どもがかわいそうだ」と、神。じゃなく、法華院温泉の社長。(社長だとは知らんかった。従業員の方がそう呼んでいたので)
「えーーーー・・・」絶句。
本当に言葉がつながらず目の奥がジワリ、いや目頭までジワーッ、熱くなる。
まさにサプライズ、「雨にあたらんですむでー」Rを抱きしめながら思わず涙をぬぐった。
一般車両通行止めの林道を社長の車に揺られながら、家族の話や法華院温泉の話を聞く。鍵でゲートを開け、何と林道8キロの道のり。な、ながい・・・。もう、いくら感謝してもしつくせない。
社長、私がちゃんとこのあたたかさ、人に伝えていきます。
そして、Rにもきちんと伝えていこう。
時に人から離れたいと感じる時もある、けれど人は人から離れられない。このあたたかみを知っているから。
大船林道入口に泊めていた私の車に横付けし、雨に濡れながら荷物を持って降りてくれた社長。
せめてもと、林道を戻っていく車が見えなくなるまで見送った。
6月12日 (木)
大分で九州最後の夜を過ごした私たち、今晩のフェリーまでたっぷり時間はある。
さぁ、今日一日張り切っていこう。昨日と打って変って晴天だーいっ。
とは言うたものの、やりすぎやろー、R。
大型水族館「うみたまご」で大大大興奮。お魚大好きっ子のR、張り切りすぎてタッチプールで・・・。な・なんと、頭からドッボーンッ。そんなやつ、おらんやろーっ、もう魚と一緒に泳いどけーっ。
全身ずぶぬれ、本日お色直し3回。あんたは花嫁か。
クタクタになるまで遊んだあとは、フェリーへの移動時間に車でネンネ。
この、ちゃんとネンネできる時間をとるのが、私たちの旅の最大ポイント。眠くてぐずるのを連れまわすのは、楽しくないどころか、まっぴらゴメンだ。ネンネタイムさえきちんとクリアーすれば、後はもうなんでもOKって感じ。
今日も、朝ごはんの後「お母さんと一緒」を見て、チェックアウトの11時まで2時間のお昼寝、これで夕方までは問題なし!私はゆっくりお風呂入ったり片づけしたり日記書いたりのお一人様タイム。
晩7時半、予定通りフェリーは大分港を後にした。残りわずかとなった船旅を楽しむことにしよう。
バイキングを食べ散らかし、レストランの椅子から落ちて大泣きし、展望浴場で転んで後頭部を強打し、牛乳パックを握って牛乳を噴水にし、最後まで大騒ぎの絶えないまま、今ようやく寝息が聞こえ始めた。
子どもといると、周りにはなんて危険がいっぱいなんだと思う。
こうして頭に玉の汗をかきながら眠りに入ると、私もようやく一息つけるというのも本音だ。
規則的な寝息を聞きながら寝顔を見ていると、自然とほほが緩み心の奥底から喜びが湧きあがってくるのを感じる。こんなこと、他人にはきっとどうでもいいようなことだけれど。
10キロに満たない体にあふれるようなパワーを宿していて、体を張って精一杯自己主張し、害虫にも愛情を抱き、小さな壁の染みにも興味深々。そして、バナナを好み、拾い食いをし、ゴロゴロ転がって私の寝る場所を奪う。
このRこそ、純粋極まりなく目の前にある今を見ているのだろう。真っ白な心で誰に左右されることもなく、赴くまま一瞬一瞬小さな冒険をしている。いや、彼にとっては小さいや大きいなんて関係ない、全身で体当たりしているんだろう。目をキラキラさせながら。
そして、朝になればお日さんとともにムックリ起きて、ニッコリと笑う。
こんな当たり前のようで当り前でない日々の繰り返しを、こんなにもありがたいと感じた事があっただろうか。
旅の間、私はよくRにくっついて眠っていた。一人で大の字になって眠りたいとも思う。けれど、このやわらかい体に触れていたら安心するのだ。
ありがとう。母ちゃんと一緒にいてくれてありがとう。
12日間、楽しい旅をありがとう。
母ちゃんは本当に本当に幸せだよ。
6月13日(金)
一夜明けるともう下船の時間だ。ナビはまだ現在地を把握できず大分県をさまよっている。
20歳のころ、2週間ほど船に乗っていたことがある。
陸に着いたら体が揺れていて、普通に歩いているつもりでも壁にゴンゴンぶつかっていた。シャワーをしていても、まっすぐに立っていられなくて何度も頭をぶつけながら頭を洗ったのを覚えている。
人はどのくらいで環境に順応するものなんだろう。
家という存在はすごい。自分の家に順応なんてものはない。
いくらその場に留まりたいと願った旅であっても、玄関に入るとほっとする。帰ってきたことにガッカリすることはない。
不思議なようだが、ここが私の拠点なのだ。
根なし浮草に憧れる気持ちもありながら、でもきっと私は・・・。そんなふりをするだけなのだろう。
そう・・・知っているのだ、私は。
この何でもない普通なことのありがたさ、そしてあたたかさを。
これからも、きっと時々は旅人のふりをしてさまようだろう。いつか、私好みの気ままな一人旅に出ることもあるだろう。
けれど、そんな旅の途中にふっと家族が恋しくなる、そんな旅人でありたいと思う。
そして、今日も言う。
「あ〜帰ってきたよ〜」「ただいま〜」。
荷物を片づけ、洗濯機を回しながら、オモチャを引っ張り出しているRを、目を細めて見ている私がいる。
追記
九州から帰った後、久々の友人に会った。
私が雪の北海道をMTBで旅した時に、摩周湖で落ち合って宴会をした友人ファミリーに。
確かあの日は、1月1日。大きなカニと差し入れのビールをたらふく飲んで新年を祝った。彼らもそんな日にちなんて忘れてしまってるだろう。
その時、10か月だった彼らの長男も5歳に成長していた。
サスガ!と笑ったのは、つい先日その子どもたちとダンナが、なんとオープンカーで旅をしてきたという。エアコンのない車で千キロ以上も走り、毎日2人用のアライテントに幼い兄妹を寝かして、自分はタープの下で転がっていたとか。
「2人に食べさせて寝かしたら、やっとビールが飲める」と彼。
ワッハッハッハー、分かるワァ!私かってそうやったもん。
それにしても彼ら、独身の時もすさまじかったけれど、留まることを知らんなぁ。
旅には人それぞれに違ったスタイルがある。その時々によって、私自身も目的が変わる。
今回のように子どもと行くと、「子どもと一緒に」ということ自体が目的になるのがおもしろい。
目の前の石ころがオモチャになり、見上げれば鳥が空を舞い、道端では花が風に揺れる。
その一つ一つに、「アーーーッ」と目を見開く。
足元はすぐそこなのに、目をこらさないと見えないもんなんだな。求めているものは案外近くにあるものかもしれない。
それを気付かせてくれたのは、R。
日常を離れて旅に出ると、Rの目線により一層近づくことができる。共に立ち止まり、同じ目線で石ころを見ている私がいる。
石ころという名の、私にとっては宝石かもしれない可能性を秘めたそれを。
旅に時計はいらない。
今を愛し、今を精いっぱい、思うがまま。それが旅の、そして人生の醍醐味なのだろう。
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