山も川も行こう>「母と息子(6ケ月児)の北海道旅17日間

ひろちゃんの「母と息子(6ケ月児)の北海道旅17日間 
2007年9月8日(土)〜24日(月)16泊17日
舞鶴からフェリーで
いよいよ母子旅の
始まりだ・・・
層雲峡YHに泊まる
裏にそびえる壁が圧巻
我が子に背負子に
落とす訳にゃいかぬ
大雪山 黒岳
7合目
黒岳は
紅葉真っ盛り
来て良かった!
富良野の
ライダーズハウス
自炊は任せて!
おにぎりはお昼用にと
今見ても
スゴイ!カニ
市場で買った
海の幸で贅沢な食事を
干しイカと
我がR
ウニをさばいてくれた
おばさん!
利尻島にも
足を伸ばす
でっかい道
北海道
お花畑も
でっけい〜っ
北端の地にて
なぜかこの場所をなかなか
離れることができなかった
               〜母と息子(6か月児)の親子北海道旅17日間〜

2007年9月8日(土)〜9月24日(月)16泊17日

母ちゃんと息子『R』(6か月児)の親子2人旅 トララ(という名のマイカー)に乗って・・・

自宅から車で出発⇒舞鶴港からフェリー⇒小樽港到着⇒富良野⇒大雪山・層雲峡⇒稚内⇒利尻島⇒礼文島⇒宗谷岬⇒小樽から舞鶴港

9月8日 22時30分 マイカーで舞鶴港到着
  9日  0時50分 フェリー出航 台風のため出船が遅れ、しかも大揺れ!
     21時30分 小樽港到着 改造車のお兄さんに救助され、無事旅人宿「杜の木」到着
10日 小樽から富良野に出発 まさに隠れ家、富良野ライダーズハウス「ログ由縁」泊
11日 チーズ工場や裏庭散策など富良野でまったり「ログ由縁」連泊
12日 旭山動物園へ。人ごみに撃沈!すぐ退散 「上川オートキャンプ村」コテージ泊
    R、シュラフデビュー!寒かった〜っ
13日 層雲峡 銀泉台へドライブ&ハイキング
林道を1時間ほど走るとそこは絶景!またまた隠れ家発見!!明日からマイカー規制のため、今日来て大正解 
「層雲峡YH」泊
14日 大雪山 黒岳に登る しょいこでいざ1984mに挑戦
     すっかり山男?山乳児?のR。絶好のお山日和で山頂は見事な紅葉と雪渓のコントラスト。でも、それより2人でてっぺんに行ったことに大感動!!
     「層雲峡YH」連泊
15日 雨には雨の人生、絵本の館で遊ぶ。名寄に移動
     コンドミニアム「大雪ビル」泊
16日 雄大な景色と牛を見ながらのんびり稚内へ移動 
    あちこち宿泊を断れた末、気持ちよく受け入れてくれた「稚内YH」泊
17日 オーナーに紹介してもらった牧場に遊びに行く 「稚内YH」連泊
18日 稚内に車を置いて、利尻島に出発 
前に子ども、後ろにリュックのいでたち。これぞバックパッカー旅!?
     観光バスで利尻島を一周、途中ウ○チ事件が起こる 利尻島民宿「なりた」泊
19日 利尻島から礼文島へフェリーに乗る
    何も決めて行かず観光協会のお姉さんに困られる。岬を散歩し林道をハイキング
     礼文島宿泊予定だったが稚内に帰る?ことにする 「稚内YH」泊
20日 宗谷岬へ。にっぽんのてっぺんだー!三脚で写真をとりまくる
    またもや「稚内YH」連泊
21日 車のドアが開かないくらいの雨風。初山別温泉であったまる。
    ライダーズハウス「風来旅団」泊 Rは宿の子どもたちに大人気、抱っことタカイタカイの連続におびえ気味(笑)
     母は宴会、奥さんの釣った生サケ最高!
22日 増毛は明治大正昭和を髣髴させる港町
     番台のオバァチャンのいる銭湯で世間話をして身も心もあったまる
     徒歩宿「増毛館(ぼちぼち)」泊 
23日 小樽観光
北の味覚、最後はサンマの刺身を市場で味わう。ベビーカーで小樽の町を散策し
温泉でくつろぐ
23時30分 フェリー出航
24日 21時舞鶴港着 ⇒ 自宅へ


 母ちゃんの日記帳

 Rには内緒だった北海道旅。出発の時まで内密に進められてきた計画。
何でって、大人の私でも毎日ドキドキなんやもん、チビッコRはもっとドキドキなはず、熱でも出したらえらいことやもん。寝て起きたら「北海道だよーっ」ってな計画。父ちゃんにもバアチャンたちにも「絶対言うたらアカンで!」と念押しして、無事にやってきた出発の日。
これで第一段階クリアー。えらいぞ、R!
 
9月9日
 台風で出船が遅れ、2時間以上舞鶴港で待つ。暑いよ〜、アスファルトの熱気と抱っこで密着した肌。
でも、キョロキョロ不思議そうに周りを見渡しながら母ちゃんにピッタンコくっついて妙におとなしいR。肌を通じて緊張が伝わってるんだろうな、彼ながら頑張ってるんだなぁ。
家でよく泣いているのはリラックスしてるからなのかな?今も泣いてもいいよ、ちょっぴりならねっ。
Rのためにと思って歌を歌ってるけど、実は自分の不安を紛らわせてるのかも。こんな夜中に歌いながら歩くフェリーターミナルの2人連れは嫌でも目を引くなぁと自分でも思う。
Rのためにも私がしっかりしなくっちゃ。

船室は1等和室なので誰に気を使うこともない、おっぱいもオムツもいつでもOK。快適な船旅が待っていた・・・はず。
なのに、フェリーは「荒波にも打ち勝つのだー」と言わんばかりにドッカンドッカン波にぶつかっていく。うぅーむ、なんだかこの旅を象徴しているような・・・さすが台風。
こんな中でもRはスヤスヤ。これ以上ありがたいことはないなぁと宙に浮く体とクラクラする頭を抱えて思った。箱入り息子のはずなんだけど・・・結構図太いのかも?

何だかんだ言いながらも、20時間近い船旅はめずらしさも手伝って(ほとんど寝ていたからかも)あっという間に小樽港に到着。小樽は夜の9時過ぎ(国内やから時差はないっちゅうねん!)、Rもちょうど眠たいモードでクシュクシュ言い始めた。フェリーターミナルから今宵の宿までは車で5分やからちょっと待ってよ。
フン、20時間もかけてやってきたんだい、5分なんて行きゃぁ分かるさーといつもの調子。
が!何だかおかしい。右も左も分からない、ここはどこ!?とうとうRのクシュクシュがビェーーーンッに変わってきてしまった。
あせってコンビニで尋ねると「まーったく違います」「とにかく西へ走ってもう一度聞く方がいい」とのこと。冷や汗がタラリ。Rの叫び声にかき消されるように横目に流れ行く小樽運河のイルミネーション。
あーー・・・、私は世界有数の方向音痴なんだったわ・・・。再びコンビニに入る間も惜しく、前でどっかと座り込んでいるお兄さんに泣きつく。
「あーん?難しいんだよなーあそこ」
目印だけでもとすがりつく私があまりにも哀れだったのか、「あん?ついて来る?」
あぁ、神様、仏様、お兄様!
このお兄さんに助けられ、ボーッと大きな音がする車のテールランプにくっついて今度は小樽運河のネオンを少し穏やかに見やりながら走る。小樽の町って難しい。

ようやくたどり着いた宿のオーナーは、必死の形相の私たちをまん丸笑顔で迎えてくれた。
Rも無事眠りに落ち、木のテーブルに腰掛けてオーナーの今日の手づくりいかだレースの奮闘ぶりを聞く。小樽ビールが傾くのを見ながら、あぁ〜なんだか旅らしくなってきたなぁと今ここにいる自分を確かめていた。


9月10日
体のどこかがピンと張っているんだろう、早朝より目が覚め早速米を炊く。北海道第1日目の朝を楽しもうするんだけど、まだ急には体が馴染まない。立ったり座ったり鍋を開けたり荷物を引っ掻き回したり。ソワソワと落ち着きないのが自分で分かる。そのうち馴染んでくるだろう。
「帰りにフェリーまでの時間があれば寄っておいで」とやさしい言葉に見送られ、雨の中富良野に向けて旅だつ。小樽よ、元気で戻ってくるぞーい。

 食いしん坊の私、北海道に来たからにゃぁおいしいものを片っ端から食べつくすぞー!と鼻息は荒い。早速、野菜直売所で手に入れたゆでもろこし。我が家の近くで取れたとうもろこしも食べているけどさ、と思いながらもガブリ。
「シュワッ!!」みずみずしさが弾けとび口の端から汁がしたたる(よだれではない)。なんと、実まで弾けて飛んでいくプチプチ度。座席の下に転がり落ちるのなんて後回し、まずは食うべしと一気にたいらげた。
トウモロコシの分際で(失礼!)この旅のウマイものランキング3位以内に入る。何が違うんだろう。恐るべし北の大地。

たどり着いた富良野のライダーズハウス「ログ由縁(ゆかり)」。
実は私、ライダーズハウス初体験。車OK、子ども(乳児)OK、それも個室のライダーズハウスって希少なんじゃなかろうか。でも、ここは事前に連絡したら快く(本当に快く)OKをもらった。正に、ここに来るためにこの道を通ってきたのだ。初めに泊ってしまったらもったいないんじゃないかいと思うくらい楽しみで楽しみで出会えるのを待ち望んでいた宿。
もう一度言おう、「ログ由縁」。
 
オーナー手づくりのログハウスは、雨の中でしっぽりと緑と調和しつややかに建っていた。オーナーが留守のため、居合わせたお客のお兄さんに案内してもらい、女性部屋でゴロゴロとくつろぐ。こういうアットホームな感じになんだかホッと落ち着く。
買い出しに行ったスーパーでタイムサービスのイカを50円でGETし、北寄貝の刺身に舌鼓。もうここの台所はすっかり私と仲良しになった。
それにしてもライダーズハウスで子どもを背負ってイカを炊く女の姿はやっぱり奇妙だったに違いないが。
ちょうど居合わせたのが長旅の人ばかりでなんだかワサワサしていないのがいい。こういうところに泊りながら旅するライダーたちは心が広いなぁと妙に感心していた。


9月11日
 女性のお客さんがなかったので、そのまま女性部屋を占領して泊らせてもらった私たち。
今日は長旅の疲れを取るため休養日、温泉に繰り出す。
朝から温泉につかり、畳の広間も貸しきり状態で2人そろってお昼寝。ここハイランド富良野の周りには緑に囲まれたお散歩コースもあるけど、今は窓の外を見ながら贅沢なお昼寝?朝寝?タイム。
後でベビーカーをコロコロ押してお散歩に行こう。

ログ由縁に向かって道を1本入ればそこはもう別世界。人のざわめきもなければもちろん舗装もない、そこを強引にベビーカーを押してガタゴト散歩。裏庭で木に手づくりされたブランコを見つけたり、犬に吠えられたり。
先ほど着いたライダーにオーナーの留守を伝えると「単車がうるさいでしょう」と。
「私たちの方がうるさいと思いますよ」と答えると不思議そうな顔をされた。どうやら地元の人と間違われたみたい。そういうことか、思わず1人でクククッと含み笑い。ここはまるで隠れ家。

ここで唯一困ったこと、実は昨日お風呂には入れなかった。
なぜって、ここは手づくりの五右衛門風呂、しかも露天!昨日は大雨だったのだ。今日こそは!と、露天風呂を覗きに行く。もちろんベビーベットなんてものはない。でも入りたいよなーということで、ベビーカー乗り入れ大作戦。
ベビーカーをベビーベット代わりにし、ベビーカーで露天風呂横付け戦法。9月の半ば近い北海道は夕方にはもう寒い。露天五右衛門風呂から上がったら、Rは即座にバスタオルで包んでベビーカーで待機、その間に私が服を着て終了。
いい作戦だったんだけどなぁ〜、Rは大泣き。ま、そういうこともあるか。
いきなり寒空の下にハダカンボでほり出されだんじゃぁねぇ・・・。

帰ってみると今日は女性の新客があった。
「全然いいですよ」って言うてはもらうけど、私たちはやっぱりあんまりよくない。
夜中にもちろん臭いの出るウ○チもするし、おっぱいも飲む。なかなか相部屋って訳にはいかない。
でもって、個室に移動することに。なんとオーナー、個室は倍の2000円なんだけど、昨夜と同じく1000円にしとくよって。おまけに、オムツも置いていっていいよって。
私はもうこのまま2週間ここに居座ってしまおうかと思ったくらいだった。本当にいてもいいかなぁと思いながら、頑張って次の地へ旅だつことにする。
頑張らないと旅立てないくらいの宿に出会えたこと、これも旅の醍醐味。


9月12日
 今日はお弁当?(単なるおにぎり。しかも毎日作っている)を作って、あの有名な旭山動物園へ。途中、メロン半切れ300円を分けあって?食べたり(オイラは汁を舐めさせてもらっただけだい!のR)、富良野の花畑を見たりしながら動物園に到着。

今日は頑張ってるRにご褒美の日、ベビーカーでルンルンお散歩だよ〜のサービス満天気分。
が!!!動物園って、あんなに人がいるもんかい!?もう、お散歩どころじゃない、動物を見るのにロープで誘導されて待つとは思いもしなかった。しかも、ベビーカーでは押しつぶされそう。並んでまで入っても、ペンギンまでは程遠く、Rは前のお姉さんの光る髪留めを触って遊んでいる始末。コレコレ・・・
アザラシの前にも人、ホッキョクグマにも人、人人人人人・・・
せっかく行ったというのに、入り口付近で脱落。入り口から一番近くのフラミンゴを見て退散することに。はぁぁ〜

はいずるように動物園を後にし、ゆっくり休もうとやってきた今日の宿はキャンプ場のコテージ。
R、本日シュラフデビュー!
Rは銀マットをカリカリ爪で引っかいて遊びながら、転がりまわって遊んでいる。雨も上がって緑もまぶしいし、あぁやっと2人になれた!はず。なのに、広々したキャンプ場になんと人影は私たちだけ。ポツンといるとなんだか心細い私。急に2人ぼっちになった気がして少し人恋しい。

そんな時、ほとんど鳴らない私の携帯電話が鳴る。あら、夫の実家からだ、どうしよう・・・って実は私、旅行に行くって言いそびれたまま来てしまっていた。受話器を通して義母のいつもの穏やかな声。
「聞いたんや、よぅ行く決心したなぁ」「私はいいことやと思たんや」「時間がある時しか行けんしな」
って・・・。
乳飲み子を連れての旅、賛否両論というよりも反対意見が多いだろうと想像できる。
心配する身内だからこそ言いたいこともあるだろうと思うのに、旅先まで電話をかけてくれた義母に頭が下がる思いがした。
ありがとう、今日はよい1日だったような気がする。
 

9月13日
 キャンプ場の朝、緑のまぶしさに目を細めながらバーナーとコッヘルを取り出して、朝ご飯にする。宿の自炊セットはお手軽で助かるけど、やっぱり使い慣れた自分の道具を触ると気持ちが落ち着く。
温かいスープがかじかんだ手に優しい。そしてなんだか心にも染みる。スープって旅の味がするなぁ〜。

昨夜はさすがに寒かった。家ではまだタオルケットで寝ていたというのに。9月中旬の北海道、コテージの板場に銀マットでは乳児にはちと厳しいと悟る。
おまけにこの寒さの中、テントで寝るのは無理だとはっきり悟る。おそい?
Rはいつも寝ている時、布団を目いっぱい使って180度の回転技をするのに、シュラフでは入ったままおとなしく寝ている。
ありがたいけど何でなんだろう?それにしても、風邪でも引いたらえらいことだわ。
 
今日は、すぐ先の層雲峡へ。層雲峡の中でも、ここは絶対外せないと思って来た銀泉台ハイキングの日。
明日から銀泉台は秋の紅葉シーズンでマイカー規制が始まる。それまでにマイカーで行きたいと日程調整してきたのだ。キャンプ場は誰もいないんだからゆっくりしたらいいのに、朝から早く行きたくてソワソワ。
今日帰るというライダーのオジチャンにもらったブドウをほおばりながら出発準備。
行ってみてびっくり、銀泉台へは1時間近くもダートな林道を走らなくちゃならない。私の運転で大変かなと思ったのはつかの間、いやはや、その道の感じがむちゃくちゃいい。両脇から木々に覆われた道が延々と続いていて私たちだけの隠れ家に行く気分。そして、木々が開けた向こうに、青い空と目にも鮮やかな山が現れた。まるで振袖のように色鮮やかな紅葉を身にまとって。
思わず、声を上げる。「うわーーーーっ」「すっごーいーーーっ」
車を止めてシャッターを切るものの、この先がどうなっているんだろうと思うとじっとしていられない。もっと見ていたい、でも進みたい。

期待いっぱいで赤岳登山口でもある銀泉台に到着。周りの山々が目の位置にあり、雲が近い。本当に、ここは期待を裏切らない隠れ家だった。観光地のような喧騒はなく、山と色とりどりの紅葉が静かに暖かく、でも情熱を持って迎えてくれている。
こうやって北海道の静かな山の中に2人でいること、目の前には見た事もないような紅葉が広がっていること、そう思うと、今以上はないなぁと今この場にいること自体に感動せずにはいられない。
いつもは先へ先へと思う気持ちも、なんだか無理はしてはいけないなぁという気持ちになっている。Rを背負ってのハイキングももっと先までを予定していたのにあっさりと第1花園で引き返す。気持ちが充分に満たされて、これ以上はもういらないなといった感じ。

往復1時間あまりのお散歩から帰ってきた母子を、パトロール事務所のオジサンたちはとてもとても親切に迎えてくれた。ストーブの炊いてある事務所でコーヒーや地元でとれた焼きクルミ(なんと押しピンでほじって食べる)なんかをいただき、くつろぐ。甘いお菓子も食べろって、色んなものを出してもらってすっかりくつろぎ体制。
Rはオジサンたちに、「こんな小さいうちから山に来れて幸せだなぁ」と大人気。そしてステキな言葉をいただいた。
「山と自然と母ちゃんを愛せる男になれよ!!」

そしてまた、今来た林道を2人で引き返している時、今まで感じたことのないような激しい感動が突き上げてきた。いきなりだった。
「母ちゃんは幸せだー」「今以上はないよーっ」
「母ちゃんのところへ来てくれてありがとー」「R!ありがとーっ」
大きな声で何度も叫ばずにはいられない。
こんな人生があったんかと、急に気付いたように驚いている。今自分があることをこんなに感動したことがあっただろうか。
車を運転しながらも涙があふれる。
Rも、じぃーっとこちらを見ている。心が通じた、そう感じた。
子どもを持つ前とでは生活が一変し右往左往の毎日で、今を振り返ることなんてなかった。けれど、このまま進むべし。私は今、私の人生に自分で感動している。


9月14日
妊娠中に友人から届いた「大雪山にいる」というメール。
その時に決めた。私も子どもが産まれたら行こう!と。
ドキドキで迎えたこの日。耳がツーンとならないかな、秋の北海道の2000mってどのくらい寒いん?風はどうやろ。心配し始めたらきりがない。
何回も何回もシュミレーションしてみて、結局は何とかなるかなって思い直して今日がやってきた。大雪山の黒岳に登る日。

黒岳に決めたのも、子どもは標高2000mで高度障害が出るっていう説が有力かなという結論に達したから。黒岳は1984m。・・・変わらへんやん!とツッコミたくなるけど、私が「これなら大丈夫!」と勝手に納得してるんやからRにも付き合ってもらうしかない。
 黒岳は5合目まではロープウェイ、そこから7合目まではスキーの時に乗るペアリフトに乗ることになる。
このペアリフトが山に登るよりも心配の種だった。抱っこ紐でRを抱っこして、しょいこは背負って・・・と腹をくくっていた。Rと一緒に落っこちないようにしなくっちゃ。
けど、リフト乗り場の人は馴れたもの、係りの人がしょいこは乗せ降ろししてくれるという。
あー、助かったー。

ちゃんと登山届けに「男1名、女1名」って書いて、さぁ、山頂に向かって出発だー。
人も少なくて自分のペースで歩けるのがうれしい。Rもしょいこで揺られてゴキゲンのままウトウト。うぅーん、Rってもしかして生まれながらにしての山男?山乳児??とすっかり親バカの私。
私は長袖1枚で汗ダクダク、暖かくて風もないさわやかな秋晴れ。きもちいーい。
Rには「これでもかー」ってくらい持ってるだけの服を着せて来たけど、まだ日干しにはなってないみたい。じっとしてると案外気温は冷たいのかも。
どんどん強くなっていく陽射しの中を、「お日さんにグングン近付いていくよーっ」って一歩一歩をかみしめて歩く。
9合目くらいからは目の前に紅葉も広がっていてカメラを構えている人も出てきた。
もうすぐ、もうすぐ、が本当になり、道が途絶えて台地が広がった。頂上だー!!
景色も何も後回しで、まっすぐに頂上の碑の前に2人で立つ。やったーっ!!バンザーイッ。
すごいよ、R!Rはタフなラッキーボーイだー。
これだけ心配した黒岳やったのに、全てがノープロブレム!全く問題なし!!
私はこの山頂からの景色を忘れない。いや違うな、Rと2人で立った山頂での感動を忘れない。
ありがとう、R。ありがとう、黒岳。
振り向けば、紅葉と雪渓とのコントラストが美しい。そして、青い空。
「後ろは雪だよー」と話していると、物珍しげに集まってきた周りの人たちが
「ユキちゃんっていうのー?」「ユキちゃーんっ」「こっち向いてー」
と、すっかりモデル状態のR。
違うんだけどなぁ、ユキちゃん・・・ま、いっか。

慌しく山頂を後にし、高らかに歌を歌いながら7合目まで無事下山。
私は記念に山頂バッチを2つ買った。私の宝物にするんだ。そして、Rが大きくなったら1つはRのやでって渡そう。

お山の後にはもちろん温泉だい!
身も心もほっかほかになった私たちはお昼寝タイムの夢の中に落ちていった。
こうして私とラッキー乳児Rとの小さな冒険は、キラキラ輝きながら幸せいっぱいに幕を閉じた。


9月15日
昨日の晴天と打って変わって朝から雨降り。昨日、一昨日とお山に行けたRはやっぱりラッキーボーイだ。
雨には雨の人生。耕天雨読じゃないけど、今日は「絵本の館」でゆっくりするとしよう。

剣淵町は絵本の町と謳われていて、道の駅にも絵本コーナーが。
絵本の館の館内には、なんと授乳室やオムツ換えシート、館内専用のベビーカーまである。赤ちゃん向けの絵本もたんまりあって、ちゃんとマットの上でゴロゴロしながら見れるという、子連れには何ともありがたい施設。
ちょうど、きたむらさとしさんの原画展をしていたので、記念に色合いのきれいなゾウのエルマーの本を購入。Rもきっと喜ぶはず。

原画展に貼ってあるポスターの人が受付に座ってはったので、「よければサインをいただけますか?」と尋ねると・・・
「ちょっと待ってください」
???ペンでも取りに行ってくれたんかな?
すると、戻ってこられたきたむらさとしさん(らしき人)、
「先生はもう北海道を経たれました」
・・・!「は、はぁ。スミマセン・・・!!」「遠くから来たもので・・・」
言い訳なんだかなんだかよく分からないことをモゴモゴ言いながら逃げるようにその場を去る。いや、明らかに逃げた。「R、あぁ、重たいねぇ」なんてRのせいにもしながら。
いやはや、失礼しました。まさか本人と間違えましたとも言えず・・・とほほ。

雨はやむ気配もなく降り続いている。早めに宿に入ってくつろぐとしよう。その前に夕飯をGETしなくては。と、市場発見!
サンマ1匹30円とは!さすが北海道。な・に・に・し・よ・う・か・な!「カニッ!」
と、勢いよく飛びついたものの、カニってイガイガでどれも手で食べれそうにない。
「すぐ先のホームセンターにハサミ売ってるよ」って言われても、ハサミ買ってまでカニ食べるかー・・・
迷っていると、威勢のいいお兄さん「よし、買ってくれるなら切ってあげよう!」「買うっ」で商談成立。
Rの体半分もありそうな一抱えもあるタラバガニを丸ごと1パイお買い上げ。さすが北海道、スケールが違う!って、カニ半分なんて売ってないもんなー。
足の1本1本まで丁寧にハサミを入れてくれていたお兄さん。次回北海道に来る時はカニバサミ持参やな。

今夜の宿には、名寄市に入ったら電話を入れることになっている。というのも、期待していた宿がいっぱいで、別の宿を案内してくれるという。
約束どおり電話を入れると・・・「今から行くからそこで待ってて」と。
「え・・・?」
どういうこと?何でここに来るの?何しに?どこに連れて行くつもり???!
急に胸騒ぎがし始める。
本気でRに言う。「R!母ちゃんを守ってよ」

迎えに来た車の後ろを着いて行った先は6階建ての最上階。この階に人気はない。
胸騒ぎは止まらない。私はカモ?女と子どもだと思われている?親切にされたん?いやいや、私たちに親切にするメリットなんかないはず。
疑い始めるとキリがなく、どんどんと深みにはまり込んでいく。ビクビクと部屋中を歩きまわり、あちこちを開けあやしいものがないか探す。ダメだ、こんな思いで一晩を越すのはムリだ、今からでも出よう!
と、近くのホテルに電話を入れるがあいにく満室。
三連休をうらむ。観光協会も閉まっているし、この時間から子どもを連れて1件ずつ回るのもキビシイ・・・。Rはすでに眠ってしまっている。

安心して眠りたい、寝顔に向かってもう一度言う。「R、母ちゃんを守ってよ!」
立ったり座ったり歩いたりしながら考えた挙句、思いつく限りのことをして朝を待つことにした。
とりあえずは、チェーンをかけ5、6本あったカサを斜めにドアに立てかけた。こうしていればドアが開いたら分かるだろう・・・
こんな時に限って、北海道で女性と子どもが襲われて山中に捨てられていた事件がニュースで報道されている・・・


9月16日
 結局、眠ることが出来ずこれを書いている。AM2時30分。
昨夜は3軒連続だった宿泊拒否。
1軒目:「お子さん、泣きませんよね!?」
    泣きます!!
2軒目:「倉庫のような所ならどうぞ。布団は1枚ひけるかどうか」
    布団がひけんと寝れんわー
3軒目:「うちは飛び込み宿じゃありません!」
あさっての予約は飛び込みっていうんかい?・・・

 乳児を連れて宿を探すことの難しさを痛感した1日だった。宿の言い分も分かりすぎるほど分かる。けれど、ここなら!と思ってアタックした所が立て続けにダメだったらやっぱりシュン・・・なのに、今いる宿のオーナーは、わざわざ私たちを車で迎えに来てまでここに連れてきてくれた。
あやしいんと違うかと疑っておびえながらこれを書いているけれど、少しずつ朝が近付いてきてもしかして本間に親切にしてもろたんかなという気持ちが大きくなってきている。
で、ちゃんと生きて朝を迎えられた。(大袈裟な!!)
昨夜、「こんな小さな子と2人で?!」「お里でもあるの?」「無謀だよ」って。
本当に親切に思って言うてくれてたんですね、疑わずにはいられなかったけど、疑ってすみません。
泊めていただいてありがとう。
子連れでも暖かく迎えてくださるというのは本当にありがたいことなんや。今まで泊まった宿に改めて感謝する。

無事に朝を迎えた私たちは(まだ言うか!)稚内に向かって走り出す。
走れども走れども広がる緑の草原と、のんびり草を食む牛たち。で、のんびり旅の私たちもあちらこちらと寄り道を重ね、三脚を立てて写真を撮る。Rの今日の靴下は白地に黒の大きな斑点。モーモー柄で牛さんに対抗だ!と思うが、もちろん牛は知らんぷり。

今日の宿は、快くOKをしてくれたYH。
思ったとおり、決してきれいではないけれどまるで家にいるみたいなアットホームさ。
風車のメンテナンスをしているという長期滞在のオジサンたちが作ったキムチ鍋をご馳走になり、オーナーも冷蔵庫から卵も入れてみたらと出してくる。Rはオジサンたちに抱っこしてもらい、私は鍋をつつき、子連れ旅を「応援したくなるんだよなー」とオーナーが目を細める。

ついには誘ってもらって管理人室でビールをゴックン(ゴックン、ゴックン!?)。授乳中の身のため、普段アルコールは口にしていない私、でもこの解放感にしばし浸る。
この旅でビールを口にできる日があるとは考えもしなかった。楽しい中でも、毎日毎晩Rのことが気になって、夜中にも何度も目が開いてRの様子を伺っている。
どこでもいつでも眠れるのが私の特技で自慢だったのに、母になるというのはスゴイ。
苦しそうじゃないか、布団から出てないか、隣をそっと見て変わりがなければまた眠りに落ちる。1時間もするとまたまた目が覚める。
朝は5時くらいには起き出して、Rが寝ている間に昼と晩のご飯を炊き、朝ご飯を済ませるというのが日課という、自分でもいつ寝てるんかなぁと思うが眠くならないのが不思議だ。まぁ、Rと一緒に晩の9時くらいから寝てることもあるか!
それにしても、日中もほとんど目を離す気になれず、刺身を切る時も洗濯機をまわす時にも私の背中にいるR。
いつでもどこでも一緒。旅の間はせめて1人でさみしい思いをさせたくない、24時間ずっと側にいたい、このくらいはしないとなぁ!という私の自己満足かも。
でも、抱っこ筋がむくむくと沸いてきそうなくらい腕は筋肉痛でパンパン、引きずり状態になってることもしばしば。
そんな中、私がトイレにいく間、シャンプーをする間、大雨の中車に荷物を取りに行く間、食事の間、抱っこしていてくれた人があるのはとても助かった。
手を差し出してくれたのは同年代のお母さんより、なぜか私の母くらいの年齢の人が多い。娘や孫と重なるんかなと勝手に思っているけれど、私も「抱っこしときましょか」って気軽に声をかけれるようになりたいなって思う。


9月17日
 朝からオーナーに紹介してもらった工藤牧場に遊びに行く。旭山動物園は人ごみでしかもRには早すぎた話をしたら、オーナーが同級生の牧場を紹介してくれたのだ。

昨日、稚内に来るまでにたくさんの牛を見たけれど、近くで見るとこんなにも大きいとはビックリ。
そういえばとても長い間、牛を近くで見たことがなかったなぁ。
Rは動物園では動物に無反応でオモチャで遊んでたのに、さすがに間近で見るとおびえているのか表情をこわばらせたままピクリとも動かないのがおかしい。
牧場のオーナーは牧草をトラクターで運んでいた手を止めて、牛舎を案内してくれ側のタンクから絞りたての牛乳をひしゃくですくってくれる。いよっ、待ってました!牛乳大好きっ子の私、1日に1リットルは軽く飲める。でも、殺菌してない牛乳ってクサイんだろうなぁーと覚悟を決めてチビッと口を付けると・・・
えっ!?アマイ!しかも、サラリとしている。普段飲んでる牛乳はナンナンダ?
オーナーも意外でしょうとニコニコ。
「子どもと2人で!?」「ここ(稚内)は今の時期何もないよ。南へ下っておいしいものでも食った方がいいよ」って。
ふふふ。地元の人が当り前なことも私たちにとっては当り前じゃないんだなー。
特別なことはなにもなくていい、こうやって牛を見に来たことも私たちにとっては探検気分、それだけで充分。

昨日いっぱい車に乗ったから、今日は近場でのんびり過ごそう。今日はお昼寝しようねっていう日に限って寝てくれないR。私の思惑通りにはいかずグズグズ。寝さされようとする殺気を感じるんだろうなぁ。
結局、ベビーカーで市場にウロウロお散歩に行くことに。
市場には所狭しと並ぶ秋鮭、おいしそう。でも、地元でサケがたくさん捕れるのに外国産のサケが同じくらいたくさん並んでいるのは不思議。サケじゃない、サーモンっていうんやろか・・・。
ベビーカーに乗せて端から端まで歩き回っていても寝るどころか、目をキラキラさせて周りを見渡している。もっと小さい頃はベビーカーに乗るとすぐに寝たんだけど、色んなものに興味が出てきたんだなぁ。きっと子どもなりに色んなものを見て色んなことを感じてるんだろうなぁ。どこにいても小さいから分からないんじゃなくって、子どもなりに今日を、そして旅を味わってるんだろう。
寝てくれることばかりを期待せずに、一緒に見たり話したりして楽しまなくっちゃ。
そろそろ夕飯の買い物をして退散するか。

うに丼を食べに行くつもりだったけど、Rの一寸先は誰にも分からない。
ご飯やさんでぐずっても困るし抱っこで食べてもお互いゆっくりできないしということで、市場で生うにGET。今日は贅沢にお手製うに丼とソイ定食にしよう。ソイって初めて見たけどメバルの種類の魚なんだって。
 ゆっくりするはずの1日は出かけたり帰ってきたりなんだか慌しい。たまにはと欲張って煮付けなんて作ってみたり。いつもよりも走り回ってる気がするなぁ。

なんだかんだでRを寝付かせながら一緒に寝てしまっていた私、はたと目が開いて気付く。
乾燥機かけっぱなし!400円も入れてたのに乾いてないやん!洗濯場には「9時まで」の張り紙。
どうするぅ〜・・・
大量に入れたもんなー、明日の服もない。
ったくぅ!こうなりゃ最後の手段、人間乾燥機。Rの服を私の肌に着けて着乾かしすることに。
もぅ、私ってつくづく母ねぇ〜と自分で苦笑・・・


9月18日
 朝から慌しくザックを背負う。思いもよらず日程があいたので、車を置いて利尻島・礼文島に出発。予備知識なし。1冊くらいガイドブックを持ってくればよかったなと今更ながら思う。

車があったから大量荷物も気にならなかったけど、車を離れるとなるととても心もとないような。でも、前には子ども、背中にはザックのいでたち、これぞ子連れバックパッカー?いやいや、子連れ家出人かも。
 
まず向かった利尻島、観光のアシもないので2人で島一周の観光バスに乗り込む。所要時間3時間。3時間も大丈夫かなぁと思いながらもバスの最後尾に陣取り、散策から帰れば授乳、ぐずれば授乳、と必殺技でしのぐ。バスの中も数えるほどしか人も乗っていないのでマイペース。
雲ひとつない空に利尻富士がそびえ立っていて、島のどこからでも見える。これぞまさに島のシンボル。
そして、この島に来たもう1つの楽しみはウニ!
これはさすが利尻島、生きたウニをオバサンが手づかみしてぱっくり割ってくれる。
おーーー、これがウニかー!ウニウニと???動いているぅ!
知らんかった、あのイガイガが触覚みたいに動くとは!
ウッシッシ、これぞ生ウニいっただっきまーす。
と、私ばかり楽しんでおっぱい攻撃で黙らされていたのに腹を立てたのか、なんとRも必殺技を出してきた。
異様な臭気・・・あーっ、おっぱいやりすぎたんだーーー・・・

観光時間の間にこっそりバスの最後尾でオムツ交換・・・と思ったのに、なにぃ!!オムツの中はからっぽ。入ってるはずのウ○チがない!
あーーーー、やられたっ。完全に私の敗北だー。
抱っこ紐で吊り下げられている時にコトが起こったようで、ブツは背中に・・・
ひぇーーーっ。とにかく、体中をオムツでグルグル巻きにして上から私のカーディガンを巻いて応急処置。
最終観光地だったからよかったものの、バスが発着地へ戻るまでは誰かが臭気を察知しないかと気が気じゃない。ターミナルに着いてトイレにダッシュ!!
ふぅぅぅ〜・・・
おそるべし抱っこ紐。おそるべしR!!
お腹がいっぱいのRはゴキゲンでキャッキャ遊んでいる。Rの必殺技にはかなわない、母ちゃんは参りました。

 昼食を食べに行く気力もなくなり、利尻富士温泉に行ってごろ寝。
私は昨日のおにぎりに、バスでもらった利尻とろろこんぶを巻いてモジャモジャオバケおにぎりの昼食。これもいいよね。
 だってお腹もあけとかなくっちゃ、今夜は初めて食事付きの宿。

宿泊案内で素泊まりでっていうたら「自炊がしたいの?」と尋ねられ、返事に困る。
自炊がしたいわけではない・・・何て説明したらいいんかなぁ。確かに地元ならではのおいしい色んなものを安くで味わいたい。でも、それだけじゃない。なるべく自分で旅を作りたい、旅してる感じを味わいたい。そんな自己満足。
でも結局今日は割り切って民宿でご馳走をいただくことに。
ちょっとお尻がむずがゆい気もするけど、ウニの昆布締めやナマコやヒラメの刺身、ホッケのつみれ汁などなどを見ると素直にワォーッって歓声を上げる。その上、ご飯3膳も食べたら何も文句いう事なんてないよなー!!
あ〜、こんなに贅沢していいのかなぁ〜、竜宮城状態。


9月19日
 Rが寝ている間にちょっと散歩と外に出ると、目の前にデーンとそびえるペシ岬。おいでおいでと呼んでいる。走れば15分だわッと思わずスリッパを脱ぎ捨て、靴に履き替え小走りゴー!!
だって、民宿から登り口まではほんの10秒、行くっきゃない、ペシ岬が待ってるゼィ。

岬の上からは遮るものは何もない、風を感じる展望台、あぁ最果ての岬。
そしてまたまたダッシュで駆け下りる。今度はRが待ってるゼィ。
母ちゃんはとっても忙しい。
 
ここ利尻島から礼文島行きのフェリーに乗り込むのももうお手のもの、Rもすっかり旅乳児。40分ほどで到着した礼文島、はてどうしたものか。
観光バスはもうゴメンだよと2人で意見一致。のはず。
フェリーにあんなにいた人たちはほとんどが団体客だったようで、観
光案内所に向かったのは私たちだけ。その意味が分かった。島内のアクセスがかなーりイマイチ。移動するにも路線バスなんて何時間に1本。島の裏側まで行くにも片道1時間バスに揺られて、たった2,3分停まってまた1時間かけて往復してくる。これだからこの島の魅力を維持できているのかもなぁ。
観光案内所のお姉さんは何も決めていない親子にとまどいながら、レンタカーかハイヤー(タクシー)の利用を勧めてくれる。
そんな気分にもなれない私は、片道160円のバスに乗って一番近い桃岩展望台でハイキングすることに。帰りはハイヤーを呼ぶといいとお姉さんは言うけれど、大丈夫さ。寒いですよ、山道1時間ですよ!と心配顔が追いかけてくるけど、へっちゃらさ。ザックはもうコインロッカーに入れちゃった、手荷物はオムツとお茶!さぁ、出発。

バスを降りて桃岩登山口から山道をテクテクとお散歩、いつの間にかRは眠ってしまった。最果てだろうが何だろうがマイペースを貫くR。それでいいのさー。それが!いいのさー。
まるで近所をお散歩しているみたいな感覚で咲き遅れた花を見たり庭先に干してあるこんぶを見たり、誰もいない中を緑に向かって歩く非日常の中の日常。2人にとって大事な大事な一瞬が積み重なっていく。

礼文島でもう一泊と考えていたけれど、やっぱり民宿に泊まるのは、「泊まらせていただく」感じがして手持ち無沙汰な気がする。
稚内に帰ろうと、フェリー待ちで入ったご飯やさんで礼文島で捕れたというおかみさんオススメのサケ定食を注文。丼鉢2杯もご飯食べといて言うのもなんだけど、これで1200円かー・・・うーん。ご飯はお代わり200円追加だったけど。
たらふくサケが食べたいなぁ〜と稚内港に着いて早速市場を覗きに行ってみると、あるわあるわ。ここはもう思い切っていっとこーいっとこー、サケ半身!これで500円なり。
切り身にしてもらったら11切れ!どないして食べるんやなんて疑問はほっといて、これがほしいのだ!
これでお腹いっぱいサケが食べれるぞー。

稚内YHへは「帰ってきた」という感覚。扉をガタガタ開けると、「おかえりなさーい」と満面の笑みのオーナーが出てきて重いザックを部屋にもって上がってくれた。
はぁーただいま、ここは落ち着くなぁ〜。


9月20日
せっかくここまで来たから行ってみるかって宗谷岬に向かう。
ちょうど昨日礼文島に泊まらずに稚内に帰ってきたから、1日フリーになったし。そんな軽い気持ちで向かった最北端の岬。
意外だった。自分でもびっくりした。青い空と濃い海の間から飛び出した三角の碑を見たとたん、感激があふれ出した。
うわぁぁっぁーって心が高鳴り「ここまで来たぞー」と叫ぶ。
Rと2人で北海道までやってきている、何泊もしながら日本最北端の地にいる、それが現実だとこの碑が物語っている。
旅が日常化してしまっていたんだろうか、でも旅の中に日常を好んで求めているのは私だ。今ここで、北海道にRと2人でいるという現実の大きさに改めて気付いたのかもしれない。
観光バスでやってきた人たちが機械的に記念写真を撮って流れて行く中、私はそこから離れることができず、三脚を立てて何枚も何枚も写真を撮った。何枚撮っても今のこの気持ちが残せるとは思えなくて、しまいかけてもまた心残りで何度も何度もシャッターを切った。
いえーいっ、てっぺんだぞー、R!。
車で昼寝をしていたお兄さんが「熱心ですね」って。
だって、もう2人でここに来ることはないだろうから。いや、こんなにいい旅ができていることに今改めて気付いたから。
有頂天の私は芝生の上でRを抱っこして寝転がる。空と海と私たちの世界。

来た道をのんびりとオホーツク海を右手に見ながらドライブ、海辺でお昼寝でもしたいなぁという気分。
今、北海道は秋サケシーズン、海には何本もの竿が並んでいるのが見える。川は禁猟区だから大きな川側の海がベストポイントらしい。見物に近づいてみると、朝に1本上げたというオジサン、次は2時半から3時の間がいい時間になると話してくれた。
サケの釣れるのが見たいなぁ、でもずっと見られてるのはいやかな?釣れるといいなぁ〜。

別段何をするでもない私たち、その日その時の気分で予定は決まる。
夕焼けを見に行ったドライブの途中、突然稚内温泉へ寄り道することに。
この童夢という名の温泉、大人は600円なり。これはまぁフツウ。驚いたのは、乳児100円!ちゃんと「乳児」の横に「0歳から1歳」と書いてある。
だいたい温泉とかお風呂ってどこも乳児って無料じゃない?
考えてみると、ちゃんとお風呂に入るしシャンプーもするし体も洗うのに、無料な方が不思議なくらい。Rの分もちゃんと100円お支払い。なんだか母ちゃんのオマケじゃなくて一人前に扱われた気分。えっへん!
温泉は大好きなんだけど、お座りの出来ない子を抱えて入るのはなかなかパワーがいる。たまにはゆっくり湯船につかりたいなぁ〜と贅沢なことを思ってみたり。
だって、毎日のお風呂も抱っこで2人は一緒。もちろん私の頭を洗う時だって。しぶきや泡がいっぱい顔にかかりながらも頑張ってしがみついてるR。Rだってゆっくり入りたいよなー、お互い様かぁ。
実はお風呂で使えるイスも、持っては行ってた。毎日使いたいけど、荷物が多すぎ!
着替えやお風呂セットを持って子どもを抱えて、その上にイスを持つとお風呂にたどり着くまでに何かはなくなってること、間違いない。


9月21日
合計4泊もお世話になった稚内YH。もう1泊してもいいかなとも思うけど、進めばまた新たな出会いもあるに違いないと進むことにする。
朝から大雨、しかも車のドアが押し付けられて開かないくらいの強風。車からおりようものならきっと一瞬でずぶぬれに違いない。

この旅で何が大変だったかっていうと、車での移動。いや、Rがごねた時の運転。
こうやって降りて息抜きできない時はだんだん退屈だと訴えてくる。早く言えば、大泣きするってこと。大人だって2時間も座りっぱなしだったらあちこち痛いもんなぁ。運転中では抱っこも必殺技の授乳もできない。
そんな時に登場するテーマソングがある。
キロロの「未来へ」という歌。
「ほら足元を見てごらん、これがあなたの歩む道〜、ほら前を見てごらん、これがあなたの未来〜」ってやつ。
ホント、何十回、何百回歌っただろう。大声でかすれて声が続かなくなるくらい歌った。不思議とこの歌の効果は絶大で泣き止んでウトウトし始めることが多い。もしかすると泣き疲れて眠ってしまうのかもしれないけど。Rが眠った後もCDでは別の曲がかかっているのに、私はいつまでもいつまでもこの歌を歌っていた。
旅も残り2日。後2日しかないなぁという気持ちと、泣いているRを見ているとやっとRのために帰ってやれるとも思う。でも、文字通り泣いても笑っても2日しかないのは変わらない、最後の最後まで楽しまなくっちゃ。

お散歩するわけにもいかず、温泉で一息入れて一路今日の宿に向かう。今日の宿はライダーズハウス。
「うちにも子どもが3人いるからいいですよ」と快くOKしてもらったので思わず有頂天になって、個室があるのか聞かなかったなー。ここはなんと1泊800円、この旅の最安値。
どんなところなんだろうと楽しみの中にもやっぱり不安が。
でも、もうどんなところでもやっていけるだろうという気になってるのも確か。

たどり着いた玄関には「留守にしています。入っていてください」という年季の入った張り紙。
「お邪魔シマース・・・」人気のない部屋にオズオズと入り、たくさん張ってある写真をながめたり部屋を見渡しながらウロウロ。やっぱりシーン・・・。
でも静かな間にお昼寝タイムとしよう、誰も来るなよー・・・。

やっぱり案の定というかこれが定めというか・・・
やってきた、ドタドタドタドターッと足音。
「赤ちゃん、かわいい」と人懐っこい笑顔が飛び込んでくる。
そこからはもう、Rはアイドル状態。ライダーズハウスの子どもたちに抱っこされ、仕事から帰ってきた奥さんやご主人にも抱っこやタカイタカイ。子どもたちはRがめずらしいらしく、ずっと側でプロレスごっこをしたりいっぱい色んなおもちゃを出してきたり。
しまいには、幼稚園児に引きずられるように抱えられ、隣にある家のほうに行ってしまった。
大人気で遊んでもらっているけど、Rは無反応でキョトン・・・子どもたちのパワーに泣くこともできずびびっている様子。
私もこんなに大歓迎なのはうれしいんだけど、ちょっぴり大丈夫かなぁって。
この日の写真が一枚もないことを思うと、やっぱり心配やったんやろうなぁと後から自分で苦笑。

Rが早々とネンネしたことをいいことに私はそそくさとお隣の男性部屋にお邪魔。
私たちの他にお客さんはバイクの男性三人組。宿のオーナー夫妻も一緒に大きな焼酎のパックが行きかう。
なんとここは焼酎飲み放題というから驚き。
そして、もっともっと驚くべきことが!なんと奥さんが釣ったというサケの大皿盛りがドーンッとテーブルに。もちろん天然モノ!
私はこんなにも大皿にぎっしり並ぶサケの刺身を見たことがない。もちろん、こんなに大量に食べたのも初めて。
この激ウマぶりは何と言ったら伝わるんだろう、いや、食べた者にしかわからんやろなー。
脂が乗っているのにしつこくなくていくらでも食べれてしまう。しかも、これはオスザケ。メスは卵に栄養を取られてしまうからオスの方がおいしいんだとか。
私たちの食べっぷりに気をよくしてくれた奥さん、太っ腹のもう一皿追加でドンッ。
もちろんそれも目の色を変えて平らげたのは言うまでもない。
この旅の美味いものランキング堂々の1位は間違いない!あれだけを食べに行ってもいいって気分。
その他にも、新鮮なサケのものしか食べれないというサケの血筋やざんぎ、とうがんのキンピラなどなどがテーブルに並び、夜のふけるのと共に宴会へと突入していったのは言うまでもない。


9月22日
 隣部屋のどんちゃん騒ぎにも動じず、ぐっすり寝てたR。相変わらず朝日とともに6時には起きてくる。さぁ、今日も楽しもう。
家の人たちもライダーの人たちもみんな出かけた後、急ぐ旅ではないのに私もゆっくりしていられず9時ごろに出発する。
家にいたら地道で100キロの道のりというと果てしなく遠いけど、北海道にいると100キロや150キロなんてちょいと隣町までという感覚になっている。ぶらりぶらり道の駅に立ち寄ったりしながら、増毛町を目指す。

着いてびっくり増毛という町は、明治・大正・昭和の風情を色濃く残した観光の町。泊らせてもらった旅人の宿も、昭和8年築、指定歴史建造物という。
そんな町なかをベビーカーでお散歩し、銭湯100選に選ばれているという古いつくりそのままの銭湯にお邪魔する。
こんなに古い銭湯にベビーベットがあるって不思議。でもこのベット、ここの雰囲気にとってもマッチしている。なぜって、ベビーベットとはいってもなんと周りに囲いがついた畳が1畳。ベビーベットというより、赤ちゃん畳というほうがいいんかな?
番台のおばぁさんに顔をしわくちゃにしながら「めんこい子」と褒められてRもゴキゲン。
風呂場での世間話、いい味出してるなぁ。建築物も大切だけど、こういう人と人とのあったかい雰囲気がなによりも心に染みる。

持ってきた米も尽きたし、スーパーで買ったレトルトご飯をレンジでチンしてもらって、じゃが芋丸揚げやアマエビクリームコロッケ、サンマのから揚げなどを買い込む。そろそろ油モノが食べたくなってたんだろうなぁ。でも、しっかりホタテやサンマの刺身も買い込んでいる。北海道がもう最後だと思うと心残りのないように食べれるものは全部食べておきたいって感じ。
食欲旺盛の私だけど、Rの食事は相変わらずおっぱいのみ。私が食べているのを、じぃぃーっとよだれをたらして見てるようになってきた。
うー・・・だんだん罪悪感が・・・。とっても心苦しい。
わざと離乳食が始まる前を選んで出発したのは私。行く先々で離乳食を作っていたらそれだけで1日が終わってしまうし、毎日レトルト食品というのも気が進まない。
でも!明らかに気付いてきている。これではなんだか不公平だということに。許せ、我が子よ。
新鮮な魚介類盛りだくさんのおいしいおっぱいをたらふく飲めよ!

夕方5時に銭湯に入ったためか、2人で夜の7時から布団に入って熟睡体制。「今から飲み会するから来てよ」とオーナーのお誘いにも、もうだめだー、ふにゃふにゃふにゃ・・・。
気が張っているからか今までは眠たくなかったけど、そろそろ私も寝不足になってきてるんだろう。

家から遠く離れると、携帯電話とは便利なものができたなぁとつくづく思う。泊る場所も決めていない旅だけど、メール1本で今日はどこにいると連絡ができる。家にいる家族も、いつでも連絡がつくという安心感があると思う。
以前だったら行ってしまうと帰ってくるまでどこにいるかも分からないし、たまに公衆電話からの電話で安否確認って感じだったのに。本来の意味での放浪の旅ってもうなかなかないのかもしれない。
私も、増毛はいい港町だよってメールを入れておく。
と、「海に落すな」「ベビーカーはロックしろ」との返信。
うちの夫、相変わらず不思議やなぁ・・・。あんさん、なんかちゃうやろ。と言うと、
「乳飲み子連れて放浪しとるのに心配せんわけないやろ」って。
いやいや、心配の内容が不思議やっちゅうねん。まぁ、こういう人とやからお互い一緒におるんかもしれへんけどなぁ〜。


9月23日
北海道最終日、小樽へと車を走らせる。
小樽港からのフェリー出航は夜の11時半。それまで存分に遊ばなくっちゃ。

向かった先は私の好きなガラス細工の店が並んでいる大通り。
ここで親指の先程の親子亀を記念に買う。もちろんこれは私とR。ちゃんと子ガメが背中に乗るところが愛らしい。
それと、同じく小指の先くらいの小さな子ガモを買う。これはR。今、夫婦に見立てたカモを2羽飾ってるんだけど、これにRも仲間入りってこと。仲良し家族って感じかな。

いいお土産を買えて大満足。
今まで全然お土産を見てなかったし、見る気にもならなかった。だって、おみやげって帰ることを前提に選ぶやん、まだまだ旅の途中って思いたかったから無理に見ないようにしていたというのが本当のところだと思う。

小樽のガラス製品、あれもこれも見たい。だけど、「壊したらお買い上げ」という内容の張り紙がこちらを向いているような・・・。
私だけじゃなくてRにとってもめずらしいものだらけ、このガラスたちがキラキラ光る宝の山に見えているに違いない。触りたい、かじりたいと声が聞こえてきそうなくらいウズウズしているはず。
通路のど真ん中にベビーカーを置いて、ちょっと離れてる間にもお宝を触ろうと小さな手が一生懸命だ。置いておけないし、抱っこしてても気がつけば何をしてるやら・・・。

なんだかんだ言いながら暗くなるまで小樽で遊んだ私とR、旅の最後はやっぱり温泉で締めくくり。小樽温泉に入って北海道最後の温泉を満喫し、フェリー出航までののんびりした時間を過ごす私たち。2人でいると結構どんな所でもくつろげるようになっている自分たちに気付いたりする。この旅の間に自分たちの空間を作り出すのが上手くなったなぁ。
小樽に着いたときは、まだそれが分からなくて何となくオドオドしていた。もしかすると、作り出しているばかりじゃなくて、『いい感じ』な所が分かるセンサーが発達して自然にそこに引き寄せられているのかもしれない。

フェリーターミナルの閉店間際に滑り込みいくつかお菓子のおみやげを買って車に積み込むと、やっと別れを告げる心積もりが整った。とうとう北海道の大地にお別れだ。

海の上でRの寝顔を見ながら、私は眠る気になれず便箋に向かってこの旅を振り返る。
北海道に向かうフェリーから「とうとう出発です」と投函してから2週間。
今度は「無事に旅を終えれそうです」と綴り、さて何から書こうかとペンを持つ手を止める。

いい2人旅だったなぁ、R。
2人だから楽しかったんだよな。この前北海道に来た時はMTBで冬の北海道だった。
その次は釧路川カヌーの予定は、妊娠発覚して前日キャンセルだったんだよなぁ。
家族が増えて、生活スタイルと同じように旅のスタイルも変わっていく。もちろん前と同じことはできなくなった、けれどそれよりももっと新しいことができるようになった。
その時々の楽しみたいって気持ちや、置かれた中で全力で楽しもうってスタイルはきっとずっと変わらない。
次はいつ一緒に来れるかな。
きっともっと、どんどん色んな楽しいことが待っているよ。